歌曲「あんこまパン」
林望 作詞 伊藤康英 作曲
第1楽章 信じてくれないだろうなあ、
第2楽章 [材料]
第3楽章 サンドイッチ用のパンに
ある日、ポストに、一通の郵便が届いた。
差出人は伊藤康英となっていたが、私にはその名前に覚えがなかった。はて誰だろうか。 首を捻りながら封を切ると、なかから几帳面に綴じられた楽譜が出てきた。
題名は『あんこまパン』とある。私はあっと思った。
かつて徳間書店から『音の晩餐』という本を出したことがある。それは「カリカリ」とか「ふわふわ」とかいうような、食べ物に関する擬音(オノマトペ)を主題とする短いエッセイを集成したものに、それぞれの擬音に関係した料理のレセピを組み合わせたという、一風変わった本である。
その中に「あんこまパン」という項目がある。これは食パンを薄く切って、そこに冷やした「こしあん」とマヨネーズを挟んで食べるという一種ミスマッチ的な感覚の新発明サンドイッチなのであるが、なんとこの伊藤さんという人は、それを丸ごと(つまりレセピそれ自体をです!)歌曲に作ってしまったというのである。
(林望/CDブック・抒情小曲集「あんこまパン」(1997年/小学館発行)より)